みなさんこんにちは。
前回まで、佐々木正美先生の「子どもへのまなざし 完」より、発達障害(特に自閉症スペクトラム)の特徴についての解説を書いてきました。
よろしければ前回までの記事もご覧ください。
今日は、奥田賢次先生の著書から「オシッコを空中に飛ばす恐怖症」について参考になる部分があったのでご紹介したいと思います。

奥田先生は臨床心理士であり、行動分析学者です。
また依頼を受けて、子どもの問題行動を解決する活動を行なっており、その手腕から「子育てブラックジャック」と呼ばれています。
奥田先生自身がトゥレット障害があり、「頭の中でアイディアが瞬時に思い浮かぶ」というチック症状があるそうなのです。
確かに王道の方法ではないのかもしれませんが、斬新な切り口で確実に問題を解決してきた信頼の厚い方です。
「オムツ外し」
「排泄の自立」
大きな課題ですよね。
で、前回の話につながりますが、
「一つに一つの理解」
「時間と空間の理解ができない」
「決まっていることはきちんとできる」
そういった自閉症の特徴によって、オムツ外しが難しい子がいます。
ここで気をつけなければいけないのは、
「トイレですることが嫌なのかまたは不可能なのか」
「これまでのパターンから外れることをするのが嫌なのか」
そのどちらなのかを見極めることです。
トイレそのものに問題があるならトイレを構造化できないか考える、その子が排泄の認知ができていない、または医学的な問題があるのなら無理に今オムツを外さなくてもいいのかもしれません。
しかし、「パターンから外れるのが嫌だ」という理由であれば、他の道があります。
当然、これまでしていない場所でしていないことをするのは大きな抵抗があります。
不安もあり、泣き叫びます。なんだか可哀想でこっちまで泣きそうになります。
でも、この子がもし「トイレで排泄をする」というパターンを身につけたなら格段に自立への道が拓けます。
どうにか、スムーズにできないものかと親御さんも先生たちも考えるわけですが…。
万人に当てはまるかわかりませんが、奥田先生の本に一つの症例が載っていたのでご紹介したいと思います。
「3歳6ヶ月の男の子エルモくん。
知的障害のある自閉症と診断されています」
エルモくんは生まれてこのかたずっとオムツで過ごしてきたため、何か股にあてがわれたものにオシッコをするということが強いこだわりとなっていました。
そして、
親御さんが「便座にある程度粘って座らせようとするが激しく拒否されるから諦めている」経験が重なったことで、エルモくんにとってはトイレは成功体験のないまま「怖い場所」になってしまっているのです。
奥田先生は、「まずはトイレを怖い場所ではなくてお菓子の家、オアシスにしましょう」と提案します。
詳細は書籍で確認していただいた方がいいと思うのですが、
まずは、エルモくんを少しずつ長くトイレに近づける方法として、エルモくんの好物のチョコレートを用います。
簡単に言うと、トイレに近づいて1分経過したらチョコをひとつ。少し前に進んだらチョコをひとつ。トイレに近づくときは有無を言わさず進み、その場所に来たらすぐにチョコを与える、という方法です。
食べ物を使っておびき出すなんて…と思われるかもしれないし、実際にセンターでこれができるのかわかりませんが、エルモくんからすると「怖くてどうしようもなかったトイレに、チョコに気を取られているうちに近づいていた。来てみたらどうってことなかった」という体験を積み重ねたことになります。
次のステップは、トイレがオアシス作戦です。
こちらも斬新な方法なのですが、「トイレ周辺とトイレでしか飲食をしない」という方法をとります。
こちらも、なかなか賛否が分かれますね笑。
ただ、これはずっとトイレで食事をするわけではなくて、「これまで恐ろしい場所だったトイレがオアシスになる」→場所に対する新しい意味を与える手段だということです。
トイレが安心できる場所とわかれば、またダイニングに戻ってきます。
この段階では就寝時のオムツはまだOK。
「一日の水分量は二倍に。
一回の食事量を減らして回数を増やす。
1日の摂食量自体はこれまでと同じ」
「くるくるモップを購入し、贅沢な絨毯は部屋から撤去」
「どうぞ床に漏らすなら漏らして下さいという覚悟が必要です」
「ただし失敗しても絶対に叱らないこと」
「お腹をすかせておいて食べさせながら一気に便座に座らせる。
ここで逃げられたらもっとダメになるので今日練習したことを思い出して下さい」
「座ったらガンガン食べさせること。降りようとする場合はそれを許さずガンガン食べることに集中させる。
必ずしもその時にオシッコなんかしてくれなくてもよい」
この方法でエルモくんのお母さんは頑張ります。
漫画の中では、エルモくんは多少の拒否はあるものの、二日目ですぐに便座での排尿に成功します(そしてそのまま便座の上で食事を続けます)。
「トイレは安心できる場所」
「股に何もないまま排泄しても大丈夫」
という成功体験を積んだエルモくんはその後保育園でも成功します。
(その後は、トイレで用を足したのち、すぐにダイニングに戻って食事をするという方法で徐々にダイニングで食事をする方向に戻します)
この方法は賛否両論あるでしょうし、どの人にも当てはまるわけではないと思いますが、「決められたことから逸脱することに不安を感じる」「一つの空間に一つの意味づけ」の特質を持ったエルモくんにはぴったり当てはまったようです。
大事なことは、「嫌」の奥にあるその子の不安を取り除いてあげることですね。
(ただこれがなかなか難しい…。愛情も知識も経験も発想力も要ります)
エルモくんのお話は以上です。
実は、もう少ししたら同じ法人の中の保育園の方に移る予定なので、障害のあるお子さんと集中して接することができるのもあと少しです。でも、保育園での経験を積んだらまた戻ってきたいと思っています。
発達障害の特性を学ぶことは、集団に馴染んでいるかのように見える他の子どもたちの対応にもとってもすごく教訓になるんです。
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